バリューチェーン分析とは?やり方と企業事例をわかりやすく解説

「自社の強みや弱みを把握したいが、どこから分析すればいいかわからない」
「競合との差別化戦略を立てたいが、具体的な方法が見つからない」
そんな悩みを抱えていませんか?
その解決策として有効なのがバリューチェーン分析です。事業活動を体系的に分解し、各工程の付加価値とコストを可視化することで、自社の競争優位性を明確にできます。
本記事では、バリューチェーン分析の基本概念から実践的な4ステップの分析手法、VRIO分析の活用方法まで、初心者でも理解できるよう丁寧に解説します。また、スターバックスやIKEA、ニトリといった有名企業の成功事例も紹介しますので、自社の経営戦略立案にすぐ活かせる内容となっています。
競合優位性を確立し、利益を最大化するための第一歩として、ぜひ最後までお読みください。
目次
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バリューチェーン分析とは
バリューチェーン(Value Chain)とは、日本語で「価値連鎖」を意味する経営戦略の概念です。企業が原材料の調達から製造、販売、アフターサービスに至るまでの一連の事業活動を通じて、どのように付加価値を生み出しているかを体系的にとらえるフレームワークとして位置づけられます。
たとえば製造業では、高品質な原材料調達と優れた製造技術、迅速な物流体制が組み合わさることで、競合が簡単に模倣できない独自の価値が生まれます。
このように、各工程が連鎖して生み出す価値全体を分析するのがバリューチェーンの考え方です。
バリューチェーン分析の目的
バリューチェーン分析の主な目的は、自社の事業活動における強みと弱みを客観的に把握し、競争優位性を高めることにあります。各工程で発生するコストや生み出される付加価値を可視化することで、経営資源の最適配分や差別化戦略の立案が可能になります。
具体的には、
- どの工程に無駄なコストが発生しているか
- どの活動が顧客満足度向上に貢献しているか
を明確化できます。
また、競合他社と比較分析することで、市場における自社のポジションや戦略の方向性も見えてくるでしょう。
さらに、バリューチェーン分析は新規事業立案の際にも有効です。既存事業の価値創出メカニズムを理解することで、新たなビジネスモデル構築のヒントが得られます。
バリューチェーンの構成要素

バリューチェーンは「主活動」と「支援活動」の2つの要素で構成されます。これらを正しく分類し理解することが、効果的な分析の第一歩となります。
主活動の5つの分類
主活動とは、製品やサービスの生産から消費者への提供まで、直接的に関わる事業活動を指します。製造業を例にとると、以下の5つに分類されます。
- 購買物流
- 製造
- 出荷物流
- 販売・マーケティング
- サービス
それぞれ解説します。
購買物流
原材料や部品の調達、入庫、保管、社内配分などの活動が含まれます。仕入先の選定、調達ルートの確保、在庫管理なども購買物流の重要な要素です。効率的な購買物流は、製造コストの削減や品質の安定化に直結します。
製造
原材料を加工して製品化する工程全体を指します。機械設備の運用、品質管理、生産ラインの効率化、メンテナンスなどが該当します。製造工程の効率性と品質は、製品の競争力を左右する最も重要な要素の1つです。
出荷物流
完成した製品を倉庫へ保管し、顧客や販売店へ配送する活動です。梱包、在庫管理、輸送手配、受注処理なども含まれます。迅速かつ正確な出荷物流は、顧客満足度の向上とコスト削減の両立に貢献します。
販売・マーケティング
製品の販売促進、広告宣伝、営業活動、価格設定、販売チャネルの構築などが該当します。顧客ニーズの把握や市場調査も重要な要素です。効果的な販売・マーケティング活動は、売上拡大と市場シェア向上のカギとなります。
サービス
製品販売後の修理、メンテナンス、カスタマーサポート、保証対応などのアフターサービス全般を指します。継続的な顧客関係の構築や顧客ロイヤルティの向上に直結する重要な活動です。
支援活動の4つの分類
支援活動は主活動を間接的にサポートし、企業全体の効率性を高める役割を担います。分類される各活動の内容として、
- 全般管理
- 人事・労務管理
- 技術開発
- 調達活動
を順に紹介します。
全般管理
経営企画、財務、経理、法務、総務など、企業活動全体を支える管理業務を指します。適切な経営管理体制の構築は、事業の安定的な成長を実現するための基盤となります。
人事・労務管理
採用活動、社員教育、人事評価、給与計算、福利厚生、労務管理などが含まれます。優秀な人材の確保と育成は、企業の競争力を支える最も重要な経営資源の1つです。
技術開発
製品開発、プロセス改善、品質向上、研究開発などの技術革新活動を指します。継続的な技術開発投資は、長期的な競争優位性の確保に不可欠な要素となります。
調達活動
原材料以外に、設備や消耗品、外部サービスなど、企業活動に必要なあらゆる資源の調達を指します。調達先との良好な関係構築や最適な調達戦略は、コスト削減と品質向上の両面で重要です。
サプライチェーンとの違い
バリューチェーンと混同されやすい概念に「サプライチェーン」があります。両者は似ているようで、着目する視点が異なります。
サプライチェーンは「供給連鎖」と訳され、原材料の調達から製品が消費者に届くまでの物流や供給プロセスの最適化に焦点を当てます。複数の企業をまたぐ広範な視点で、在庫管理や配送効率の向上を目指すのが特徴です。
一方、バリューチェーンは「価値連鎖」として、各工程で生み出される付加価値とその連鎖に注目します。企業内部の活動を中心に分析し、どこでどのような価値が創出されているかを明確化することを目的とします。
たとえば、過剰在庫の削減はサプライチェーン分析の領域ですが、製品の独自性や顧客満足度向上に貢献する活動の特定はバリューチェーン分析の領域です。両者を組み合わせることで、より包括的な経営改善が実現できます。
バリューチェーン分析のメリット
バリューチェーン分析を実施することで、企業は複数の重要なメリットを得られます。
- 事業活動のコストを把握できる
- 自社の強みと弱みを客観視できる
- 経営資源の配分を最適化できる
- 競合他社の理解が深まる
詳しく見ていきましょう。
事業活動のコストを把握できる
各活動における詳細なコスト構造を可視化できる点が最大のメリットの1つです。どの工程にどれだけのコストが発生しているかを明確にすることで、無駄なコストの削減や効率化すべき領域が特定できます。
たとえば、製造コストは適正でも出荷物流に過剰なコストがかかっている場合、配送ルートの見直しや物流パートナーの再選定などの具体的な改善策を講じられます。コスト構造の全体像を俯瞰することで、部分最適ではなく全体最適の視点からコスト削減に取り組めるでしょう。
自社の強みと弱みを客観視できる
事業活動を細分化して分析することで、自社の真の強みと改善すべき弱みが客観的に把握できます。漠然とした認識ではなく、データに基づいた具体的な強み・弱みの特定が可能になります。
たとえば「技術力がある」という漠然とした認識が、「製造工程における品質管理能力が競合より20%高い」といった具体的な強みとして明確化されます。弱みについても同様に、「営業力不足」ではなく「販売チャネルの多様性が競合の半分しかない」といった具体的な課題が見えてきます。
この客観的な自己理解は、効果的な差別化戦略や改善施策の立案につながります。
経営資源の配分を最適化できる
限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ)をどこに重点配分すべきかの判断材料が得られます。付加価値の高い活動に資源を集中させることで、企業価値の最大化が実現できます。
たとえば、分析の結果、顧客満足度向上に最も貢献しているのがアフターサービスだと判明した場合、サポート体制の強化に人材や予算を優先配分する判断ができます。逆に、競争優位性につながらない活動は外部委託を検討するなど、戦略的な資源配分が可能になるでしょう。
競合他社の理解が深まる
バリューチェーン分析は自社だけでなく、競合他社の分析にも活用できます。競合がどの工程で強みをもち、どこに弱点があるかを理解することで、自社の戦略立案に活かせます。
競合の価格戦略、製品開発スピード、顧客サービスの質などを各活動に分解して分析することで、競合の今後の動向予測や自社の差別化ポイントの発見につながります。市場全体の構造理解も深まり、より効果的な競争戦略の策定が可能になるでしょう。
バリューチェーン分析のやり方【4STEP】
バリューチェーン分析は、以下の4つのステップで体系的に進めます。
- 自社のバリューチェーンを洗い出す
- 各活動のコストを分析する
- 強みと弱みを分析する
- VRIO分析を実施する
順に紹介します。
STEP1:自社のバリューチェーンを洗い出す
まず、自社の事業に関わるすべての活動を機能別に分類し、主活動と支援活動に仕分けます。
次に、主活動をさらに細分化します。たとえば「製造」であれば、「部品加工」「組立」「品質検査」「設備メンテナンス」などの具体的な活動に分解しましょう。細分化することで、各活動の役割と付加価値がより明確になります。
業界や業種によって活動の分類は異なるため、自社の事業特性に合わせたバリューチェーンを構築することが重要です。小売業なら「商品企画」「仕入」「店舗運営」「販売」などが主活動となります。
STEP2:各活動のコストを分析する
細分化した各活動について、年間コストを算出し一覧化します。表計算ソフトを活用し、活動内容、担当部署、年間コスト(百万円単位など)を整理すると効果的です。
算出期間は四半期や1年など統一し、複数部署にまたがる活動は合算して記載します。たとえば製造活動が3つの工場で行われている場合、各工場と合計のコストを明記しましょう。
さらに、各活動のコスト比率を計算することで、どの工程にコストが集中しているかが可視化されます。コストドライバー(コスト発生の要因)の分析や、活動間の関連性も調査すると、より効果的なコスト削減策が見えてきます。
STEP3:強みと弱みを分析する
各活動について、競合他社と比較しながら自社の強みと弱みを分析します。できる限り多くの関係者(現場担当者、管理職など)から情報を収集し、客観性を高めることが重要です。
分析結果は表形式で整理すると理解しやすくなります。各活動ごとに「強み」と「弱み」の欄を設け、具体的な内容を記載しましょう。たとえば製造工程では「強み:複数工場保有により大量生産可能」「弱み:小ロット対応が困難」といった具合です。
支援活動についても同様に分析します。人事管理であれば「強み:充実した教育体制」「弱み:平均年齢が高く若手人材不足」などです。この段階で競合他社の強み・弱みもあわせて分析すると、より精度の高い戦略立案が可能になります。
STEP4:VRIO分析を実施する
VRIO分析とは、自社の経営資源が競争優位性をもつかを評価するフレームワークです。
- Value(経済的価値)
- Rarity(希少性)
- Imitability(模倣困難性)
- Organization(組織)
の頭文字を取ったもので、この4つの視点から各活動の強みを評価することによって、真の競争優位性をもつ活動と改善が必要な活動を区別できます。評価結果に基づき、経営資源の優先配分や強化すべき領域が明確になります。
業界別バリューチェーンの特徴
バリューチェーンの構成は業界によって大きく異なります。自社の業界特性を理解することが効果的な分析につながります。
- 製造業のバリューチェーン
- 小売業のバリューチェーン
- サービス業のバリューチェーン
それぞれ確認していきましょう。
製造業のバリューチェーン
製造業では「製品」を生み出す活動が価値創出の中心です。原材料の購買、加工・製造、品質管理が重要な位置を占めます。
特に原材料の調達活動はコストを大きく左右するため、仕入先との関係構築や調達ルートの多様化が競争力に直結します。製造工程では、生産効率、品質の安定性、技術力が差別化要素となるでしょう。
また、製造した製品を迅速かつ安定的に顧客へ届ける物流体制の構築も重要です。各活動の連携を強化し、調達から配送までのリードタイムを短縮することが競争優位性につながります。
小売業のバリューチェーン
小売業は「商品を購入したくなる仕組み」の構築が価値創出の核となります。商品企画、仕入、店舗運営、集客、販売、アフターサービスが主活動です。
商品企画では消費者ニーズの的確な把握が重要で、どのような商品を扱うかが事業の成否を分けます。仕入活動では、魅力的な商品の確保と原価管理の両立が求められます。
店舗運営や集客活動では、顧客が来店したくなる売場づくりや効果的な販促施策が差別化ポイントとなります。ECチャネルの活用など、販売チャネルの多様化も競争力向上に貢献するでしょう。
サービス業のバリューチェーン
サービス業では、企画したサービスの訴求性が価値創出の要です。サービス企画と営業活動が中心的な役割を担います。
顧客ニーズに合致したサービス設計ができるか、そのサービスを効果的に市場へ訴求できるかが競争優位性を左右します。形のないサービスを提供するため、顧客との関係構築やカスタマーサポートの質も重要な差別化要素となります。
また、サービス提供を支える人材の質が成果に直結するため、人事・労務管理や教育体制といった支援活動の重要性が他業界より高いのが特徴です。
バリューチェーン分析の成功事例
実際の企業がどのようにバリューチェーン分析を活用し、競争優位性を確立したかを見ていきましょう。
- スターバックス
- IKEA
- ニトリ
順に紹介します。
スターバックス:顧客体験の創出
スターバックスは原材料の購買力をもつものの、バリューチェーン分析によって店舗を「サードプレイス(家や職場とは異なる第三の場所)」として提供することを強みとして差別化を図っています。
単なるコーヒー販売ではなく、居心地のよい空間と質の高いサービスを通じた顧客体験の提供に価値の中心を置きました。店舗運営とサービス活動に経営資源を重点配分し、バリスタの教育やインテリアデザインに投資しています。
さらに、モバイルオーダーなどデジタル活用も進め、店舗とデジタルサービスの両面から顧客体験という付加価値を提供している事例です。
IKEA:物流コストの削減
IKEAは完成品ではなくパーツ販売によって顧客が家具を組み立てる仕組みを構築し、物流コストの削減につなげました。従来は企業側で行っていた組立作業を顧客に移すことで、製品サイズを小型化し輸送コストと在庫スペースを大幅に削減しています。
この仕組みは単なるコスト削減だけでなく、「自分で組み立てる」という体験自体が独自の付加価値となっています。顧客は組み立てた家具に愛着をもち、より高く評価する傾向があります。
バリューチェーン全体を見直し、活動の一部を顧客に移すことで、コスト削減と付加価値創出の両立を実現した好例です。
ニトリ:製造物流小売業の実現
ニトリは自社を「製造物流IT小売業」と位置づけ、商品の企画・製造から物流、販売までを自社で一貫管理するビジネスモデルを確立しました。
中間業者を排除することで中間コストを削減し、バリューチェーン全体のコストダウンを実現しています。同時に、各工程のノウハウを社内に蓄積・活用することで競争力を向上させ、手頃な価格と高品質の両立に成功しました。
バリューチェーン全体を自社で管理することで、顧客ニーズへの迅速な対応や品質管理の徹底が可能となり、「お、ねだん以上。」というブランド価値の確立につながっています。
バリューチェーン分析と併用したいフレームワーク
バリューチェーン分析は他のフレームワークと組み合わせることで、より効果的な戦略立案が可能になります。
- 3C分析
- SWOT分析
- PEST分析
それぞれ解説します。
3C分析との組み合わせ
3C分析は「Customer(顧客・市場)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」の3つの視点から経営環境を分析するフレームワークです。

まず3C分析で市場動向や顧客ニーズ、競合状況を把握し、その結果を踏まえてバリューチェーン分析を実施すると効果的です。市場で求められる価値や競合の動きを理解したうえで、自社のどの活動を強化すべきかが明確になります。
逆に、バリューチェーン分析で特定した自社の強みを、3C分析の「自社」の項目に反映させることで、より具体的な自社理解につながるでしょう。
SWOT分析との組み合わせ
SWOT分析は「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」の4要素で内部環境と外部環境を分析します。

バリューチェーン分析で明確化した各活動の強み・弱みを、SWOT分析の「強み」「弱み」として活用できます。さらに外部環境の「機会」「脅威」と照らし合わせることで、強みを活かす戦略や弱みを補強する施策が具体化されます。
たとえば、製造工程に強みがあり、市場で高品質ニーズが高まっている(機会)なら、品質訴求を前面に出した差別化戦略が有効と判断できます。
PEST分析との組み合わせ
PEST分析は「Politics(政治)」「Economy(経済)」「Society(社会)」「Technology(技術)」の4つの観点から外部環境を分析します。

PEST分析で把握した外部環境の変化が、自社のバリューチェーンにどう影響するかを検討できます。たとえば、環境規制の強化(政治的要因)が予測される場合、調達活動や製造工程の見直しが必要と判断できるでしょう。
バリューチェーン分析で特定した各活動の強み・弱みと、PEST分析で把握した外部環境の変化を組み合わせることで、中長期的な戦略立案が可能になります。
まとめ
バリューチェーン分析は、事業活動を主活動と支援活動に分解し、各工程の付加価値とコストを可視化する強力な経営フレームワークです。
本記事で解説した4つのステップ、
- バリューチェーンの洗い出し
- コスト分析
- 強み・弱みの分析
- VRIO分析
を実践することで、自社の競争優位性が明確になり、効果的な経営戦略の立案が可能になります。
スターバックスの顧客体験創出、IKEAの物流コスト削減、ニトリの一貫管理モデルなど、成功企業の事例が示すように、バリューチェーン分析は単なる理論ではなく、実際のビジネスで大きな成果を生み出す実践的なツールです。
市場競争が激化する現代において、自社の強みを最大限に活かし、弱みを改善するための客観的な分析は不可欠です。まずは自社の事業活動を主活動と支援活動に分類することから始め、段階的にバリューチェーン分析を実践してみてください。
継続的な分析と改善を通じて、競合との明確な差別化と持続的な競争優位性の確立を実現しましょう。
マーケティング活動において、目的によって多様なフレームワークが存在します。16種のフレームワークを一覧表で紹介しているので、気になる方はぜひ以下の記事をご覧ください。
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