ジョブ理論とは?顧客の「なぜ」を解き明かすイノベーション理論を実践方法と事例で解説

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「商品の改善を重ねても売上が伸びない」「顧客の本当のニーズがつかめない」このような課題を抱えていませんか?その課題を解決するために、クレイトン・クリステンセン教授が提唱した「ジョブ理論」を使ってみましょう。

ジョブ理論とは、顧客が商品を購入する「なぜ」という本質的な理由を解き明かす理論です。従来のマーケティングでは見えなかった顧客の真のニーズをとらえることで、イノベーションを予測可能にします。

本記事では、ジョブ理論の基本概念から実践的なフレームワーク、X(旧Twitter)・Uber・iPodなどの成功事例まで徹底解説します。新規事業開発やマーケティング戦略の立案に携わる方は、ぜひ最後までお読みください。顧客理解を深め、市場に支持される商品・サービス開発のヒントが得られます。

目次

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ジョブ理論とは何か?

実践方法や事例を紹介する前に、まずはジョブ理論の概要を確認してみましょう。

  • ジョブ理論の定義
  • クリステンセン教授が提唱した背景
  • 「ジョブ」と「雇用」の意味

それぞれ解説します。

ジョブ理論の定義

ジョブ理論(Jobs To Be Done)とは、人が商品やサービスを購入する行為の背後にあるメカニズムを解き明かした理論です。顧客は単に商品を買っているのではなく、「ある特定の状況で成し遂げたい進歩」を実現するために商品を雇用(購入)していると考えます。

この理論では、顧客が解決したい課題や達成したい目標を「ジョブ(片づけるべき仕事)」と呼びます。商品の機能や価格だけでなく、顧客がどのような状況で何を成し遂げたいのかに焦点を当てるのが最大の特徴です。

従来のマーケティングが「誰が買うか」に注目するのに対し、ジョブ理論は「なぜ買うか」という因果関係を重視します。これにより、企業は顧客の本質的なニーズを理解し、真に価値ある商品開発が可能となるのです。

クリステンセン教授が提唱した背景

ジョブ理論を提唱したのは、ハーバード・ビジネス・スクール教授のクレイトン・M・クリステンセン氏です。2003年の著書『イノベーションへの解』で初めて「Jobs to Be Done」という概念を紹介し、2017年の『ジョブ理論』で理論を体系化しました。

クリステンセン教授は、『イノベーションのジレンマ』で大企業が革新性を失うメカニズムを明らかにしましたが、同著では「いかにイノベーションを起こすか」には触れていませんでした。その答えとして提示されたのがジョブ理論です。

マッキンゼー賞を5回受賞した同教授は、理論と実践の両面で卓越した経営思想家として知られています。多くの企業がイノベーション創出に苦戦する中、ジョブ理論は運任せではない体系的なアプローチを示しました。

「ジョブ」と「雇用」の意味

ジョブ理論における「ジョブ」とは、特定の状況で人が成し遂げたい進歩を指します。単なる欲求や要望ではなく、置かれた文脈の中で解決したい具体的な課題です。

「雇用(ハイア)」は、ジョブを片づけるために特定の商品やサービスを選択し消費する行為を表します。顧客は自分のジョブを最も効果的に解決してくれる商品を”雇用”し、不十分な場合は”解雇”して別の商品を選ぶのです。

この比喩的な表現により、顧客と商品の関係が明確化されます。企業は「どうすれば顧客から継続的に雇用されるか」を考えることで、本質的な価値提供に集中できるようになります。

ジョブ理論が注目される理由

現代のビジネスにおいて、ジョブ理論が注目を集めているのは以下の3つの理由があります。

  • 従来のマーケティングとの違い
  • イノベーション創出における価値
  • ビッグデータでは見えない「因果関係」

詳しく解説します。

従来のマーケティングとの違い

従来のマーケティングは、年齢・性別・収入などの顧客属性(デモグラフィック)を重視してきました。しかし同じ30代女性でも、購入理由は「自分へのご褒美」か「ステータスの演出」かで大きく異なります。属性データだけでは、この違いをとらえられません。

ジョブ理論は「誰が」ではなく「なぜ」に焦点を当てます。顧客一人ひとりが直面している状況と、目指すべき進歩を考慮するため、より高い解像度で顧客ニーズを理解できます。

また、データ分析では相関関係しか見出せませんが、ジョブ理論は因果関係のメカニズムを解明します。これにより「なぜその商品が選ばれるのか」が明確になり、的確な打ち手を導き出せるのです。

イノベーション創出における価値

多くの企業がイノベーション創出に多額の資金と優秀な人材を投下していますが、成功率は決して高くありません。デジタル化により膨大なデータを分析できるようになった今でも、イノベーションは運任せの側面が強いのが現実です。

ジョブ理論は、この状況を変革します。顧客のジョブを深く理解することで、どのようなイノベーションが支持されるかを予測可能にするからです。

既存事業では「顧客のジョブに対して自社商品に何が足りないか」を分析できます。新規事業では「現状の商品では片づけられないジョブは何か」を探ることで、成熟業界でも新たな市場機会を発見できるのです。

ビッグデータでは見えない「因果関係」

ビッグデータ革命により、顧客に関する膨大なデータの収集・分析が可能になりました。しかし「顧客の68%が商品Aより商品Bを好む」といった相関関係は分かっても、「なぜ好むのか」という因果関係は見えません。

ジョブ理論は、この限界を克服します。顧客がなぜ特定の商品を買うのかという因果のメカニズムを明らかにすることで、真の競合相手が何かを見出せます

たとえば、ミルクシェイクの競合にはバナナやドーナツがありますが、状況によってはおもちゃ屋やゲームセンターも競合になり得ます。このように、従来の枠組みを超えた競合理解が可能になるのです。

ジョブ理論の核心:ミルクシェイクの事例

ミルクシェイクを展開するファーストフード・チェーン店の事例をもとに、

  • ファストフード店が抱えた課題
  • 観察とインタビューで見えたもの
  • 「状況」によって変わるジョブ

について解説します。

ファストフード店が抱えた課題

あるファストフード・チェーン店は、ミルクシェイクの売上向上に悩んでいました。数ヶ月をかけて購入客の属性を分析し、詳細なアンケート調査を実施。「もっと甘くしてほしい」「量を増やしてほしい」といったフィードバックを得ました。

それらの要望に応えて味・量・価格を改善しましたが、何ヶ月経っても売上はまったく変化しませんでした。従来の手法では解決できない壁に直面したのです。

そこで店側はクリステンセン教授に相談。教授らは視点を変え、「顧客のどのようなジョブが彼らを店に向かわせ、ミルクシェイクを雇用させたのか」という問いを立てました。

観察とインタビューで見えたもの

調査チームは店頭で10時間以上、ミルクシェイク購入客を観察しました。すると午前9時前の来店客のほとんどが、ミルクシェイクだけを一人で購入し、車で走り去っていました。

インタビューすると、朝の通勤客には共通のジョブがありました。「車での長い通勤中に気を紛らわせたい」「昼食までの空腹を満たしたい」という目的です。

バナナは会社に着く前に食べ終わり、ドーナツは手がベトベトになります。ミルクシェイクは片手で飲め、車内を汚さず、ストローで飲むのに時間がかかる点が最適でした。つまり味や価格ではなく、この状況における「最良の解決策」として雇用されていたのです。

「状況」によって変わるジョブ

さらに興味深いのは、同じ顧客でも状況によってジョブが変わる点です。休日の日中、父親がミルクシェイクを購入するのは「子どもへの埋め合わせ」が目的でした。平日厳しくしつけている分、週末は優しい父親でいたいというジョブです。

この場合、競合はファストフード店の他商品ではなく、おもちゃ屋やゲームセンターになります。ジョブが変われば、競合もまったく異なるのです。

この発見により、店側は朝向けには「どろっとして長持ちするシェイク」、休日向けには「子どもが喜ぶ早く飲めるシェイク」と、ジョブに応じた商品展開を行いました。結果、売上の大幅向上に成功したのです。

ジョブ理論の3つの側面

ジョブ理論では、顧客が達成したいジョブを以下の3つの側面から考えます。

  • 機能的ジョブ
  • 感情的ジョブ
  • 社会的ジョブ

それぞれ紹介します。

機能的ジョブ

機能的ジョブとは、顧客の根本的な欲求を表すジョブです。ミルクシェイクの例では「小腹を満たしたい」、工具であるドリルの場合は「穴を開けたい」が該当します。

機能的ジョブには3つの特徴があります。第一に、時代や場所を超えて安定している点です。ドリルの「穴を開けたい」という欲求は、いつの時代にも存在します。

第二に、地理的な境界線がありません。世界中どこでも同様の欲求が存在します。第三に、ソリューション(解決手段)が大きな意味をもちません。穴が開きさえすれば、ドリルでもキリでも構わないのです。

機能的ジョブを明確にすることで、商品の本質的価値が見えてきます。顧客は「ドリルが欲しい」のではなく「穴を開けたい」のであり、その理解が新たなソリューション開発につながります。

感情的ジョブ

感情的ジョブは、顧客が「どう感じたいか」という部分に焦点を当てます。機能的ジョブを満たす過程や達成後に、どのような感情を得たかが購買行動に影響します。

たとえばコーヒーショップで考えてみましょう。機能的ジョブは「カフェインで目を覚ます」ですが、感情的ジョブは「忙しい日常の中で癒しの時間を過ごしたい」となります。

この場合、コーヒーの値段や味よりも、店内の雰囲気や座席のゆったり感、気の利いた接客が重要になります。感情的ジョブを理解することで、機能面だけでは差別化できない市場でも独自の価値を提供できるのです。

社会的ジョブ

社会的ジョブは「他者からどう見られたいか」という側面です。顧客が周囲からの評価を気にする場合、この要素が購買の決定要因となります。

高級コーヒーショップを利用する理由が「洗練された人だと思われたい」であれば、社会的ジョブが主目的です。この場合、価格の高さやブランド力こそが価値となります。

社会的ジョブは機能的ジョブと異なり、他人から見てどう感じられるかを重視します。そのため近隣に安くて便利な店ができても、顧客の流出にはつながりにくい特徴があります。商品やサービスの設計時には、この3つの側面を総合的に考慮することが重要です。

ニーズとジョブの違い

ここではよく勘違いしてしまうニーズとジョブの違いについて紹介します。

  • ニーズは「解決策」、ジョブは「本質的欲求」
  • ドリルとジョブの関係

それぞれ見ていきましょう。

ニーズは「解決策」、ジョブは「本質的欲求」

ニーズとジョブは似た概念ですが、明確な違いがあります。ニーズとは、商品に向けられた関心や欲求のことです。「ペットボトルの水が欲しい」という状態がニーズに該当します。

一方、ジョブは商品に依存しない「やりたいこと」です。「手軽に喉を潤したい」がジョブであり、その解決策としてペットボトルの水というニーズが生まれます。

ジョブは消費行動の源泉であり、特定の商品がなくても存在します。企業が「ニーズに応える」だけでは、表面的な対応に終わりがちです。ジョブを理解することで、より本質的な価値提供が可能になります。

ドリルとジョブの関係

「顧客はドリルが欲しいのではなく、穴が欲しいのだ」という有名な言葉があります。これはジョブ理論の本質を表しています。

ドリルを購入したいというニーズの背後には、「壁に穴を開けたい」というジョブが存在します。さらに深掘りすると「写真を飾りたい」「部屋を快適にしたい」という上位のジョブが見えてきます。

このようにジョブを掘り下げることで、ドリルとはまったく異なる解決策も考えられます。たとえば接着剤や画鋲、あるいはデジタルフォトフレームも競合になり得るのです。ジョブの視点をもつことで、市場のとらえ方が根本的に変わります。

ジョブを見極める5つの問い

ここでは「ジョブ」をどのように見つけていけば良いのかを解説します。

  • ジョブ特定のための思考法
  • 5つの問いの実践例

それぞれ確認して実践してみましょう。

ジョブ特定のための思考法

顧客のジョブを特定するには、「誰が」「何を」というデータではなく、「なぜ」というストーリーで考える必要があります。特定の状況で進歩を成し遂げようと苦心している人を主人公として、短編映画のように考えるのです。

ジョブ理論では、以下の5つの問いに答えることで、顧客のジョブをより具体化できます。この問いは、表面的なニーズではなく、深層にある本質的な課題を明らかにするものです。

各問いは相互に関連しており、順番に答えていくことで顧客の状況が立体的に浮かび上がります。データや指標だけでは見えない、顧客の生の声や行動の背景が理解できるようになるのです。

5つの問いの実践例

ここでは「よりよい第一印象のために歯を白く美しく保ちたい」という人を例に、5つの問いを見ていきましょう。

問1:その人が成し遂げようとしている進歩は何か
「とびきりの第一印象を与える笑顔が欲しい」—これがこの人のジョブです。

問2:苦心している状況は何か
「年に2回歯科医院に通っているのに、思ったほど歯が白くならない」—既存の解決策では不十分です。

問3:進歩を成し遂げるのを阻む障害物は何か
「歯を白くする歯磨き粉を試したが、効果がない」—さまざまな手段を試しても解決していません。

問4:不完全な解決策で我慢していないか
「家庭用ホワイトニングキットを購入したが、マウスピースを一晩中装着する必要があり、歯がヒリヒリする」—一時しのぎの対処をしています。

問5:よりよい解決策の品質とは何か
「費用や手間をかけずに、専門の歯科治療によるホワイトニングを受けたい」—これが理想の解決策です。

ジョブ理論の実践方法

ジョブ理論は、以下の4つのステップで実践されます。

  1. ジョブを見つける
  2. 雇用までのストーリーを作る
  3. 阻害要因を取り除く
  4. ジョブを中心に組織を構築する

順に確認しましょう。

STEP1:ジョブを見つける(ジョブハンティング)

ジョブ理論の実践は、まず顧客のジョブを見つけることから始まります。顧客がどのようなジョブを片づけたくて、自社や競合の商品を雇用しているのかを探ります。

数値や指標だけに囚われず、観察やインタビューを実施することが効果的です。顧客の行動を直接見ることで、言葉にならない課題やニーズが見えてきます。

重要なのは「無消費」の顧客も観察することです。商品を雇用しなかった理由を考えることで、新たなジョブを見つける糸口になります。既存顧客だけでなく、潜在顧客層にも目を向けることが、イノベーションにつながるのです。

STEP2:雇用までのストーリーを作る

ジョブが見つかったら、次に自社の商品やサービスを雇用してもらうためのストーリーを作成します。既存の雇用パターンに囚われず、新しく見つけたジョブを起点に考え直すのがポイントです。

顧客がジョブに直面する状況から、自社商品を雇用し、ジョブが片づくまでの一連の流れを描きます。このストーリーは、顧客の感情や思考も含めた具体的なものにします。

無消費のパターンも参考にしながら、なぜ顧客が従来の解決策では満足できないのかを明確化します。これにより、真に価値ある新しいアイデアの発想につながるのです。

STEP3:阻害要因を取り除く

雇用までのストーリーが完成したら、ジョブを雇用する際の障壁となる要因を洗い出し、それらを緩和します。価格、手間、時間、心理的抵抗など、さまざまな角度から阻害要因を検討しましょう。

たとえば「高価すぎる」「使い方が分からない」「信頼できない」といった懸念がある場合、無料トライアル、チュートリアル、保証制度など、それぞれに対する解決策を用意します。

顧客が無消費を選んでしまう理由を一つひとつ解消することで、雇用へのハードルを下げられます。この段階で顧客の不安や迷いに丁寧に対処することが、成功のカギとなります。

STEP4:ジョブを中心に組織を構築する

最後に、ジョブを中心に商品・サービス・組織を構築していきます。商品の機能や組織の都合ではなく、顧客のジョブを起点とした設計が重要です。

ジョブを片づけるための体験全体を設計し、マーケティング、営業、カスタマーサポートなど、すべての部門がジョブを共通言語として動けるようにしましょう。

顧客にとって、ジョブが発生したときに真っ先に思い浮かぶ商品・サービスを目指します。「オンライン会議=Zoom」のように、商品名が代名詞になれば、ジョブを完全にとらえた証拠です。

ジョブ理論のフレームワーク

ジョブ理論を実践する際にはフレームワークを活用することをおすすめします。

  • JOBSメソッド
  • ジョブマップ

それぞれ確認してみましょう。

JOBSメソッド

JOBSメソッドは、日本企業がジョブ理論を実践するために開発された手法です。INDEE Japanがクリステンセン教授の理論をもとに考案しました。

J・O・B・Sの4つの観点から顧客の状況を分析します。J(Job)は片づけたいジョブ、O(Outcome)は目的や理想の状態、B(Barrier)は障害や阻害要因、S(Solution)は代替解決策を指します。

このフレームワークを用いることで、顧客の状況を体系的に整理できます。観察やインタビューで得た情報を4つの要素に分類し、ジョブの全体像を明確化します。その後、仮説検証と価値提案の決定を繰り返し、顧客の真の望みを解決する商品・サービスを開発します。

ジョブマップ

ジョブマップは、ジョブを片づけるための行動を段階に分けて可視化するフレームワークです。顧客がジョブを達成するまでのプロセスを細分化し、各段階の課題や改善点を洗い出します。

一般的には「定義→準備→確認→実行→監視→修正→完了」という流れで整理します。たとえば「部屋の模様替え」なら、理想のイメージを定義し、家具を準備し、配置を確認してから、実際に移動させ、住み心地を監視し、必要に応じて修正して、完了します。

各フェーズで顧客が何に困っているか、何を求めているかを明確にすることで、プロセス全体を通じた価値提供が可能になります。一つの段階でも優れた体験を提供できれば、競合との差別化要因となります。

ジョブ理論で成功した企業事例

ジョブ理論を実践することで成功した事例は以下の通りです。

  • X(旧Twitter)
  • Microsoft
  • Uber
  • iPod

それぞれ紹介します。

X(旧Twitter):ジョブを中心に会社を立て直し

X(旧Twitter)は2015年、低迷期にジョブ理論を活用して再建に成功しました。創業者のジャック・ドーシーがCEOとして復帰した際、製品や技術ではなくジョブを中心に戦略を立てたのです。

彼は顧客の3つのジョブを特定しました。「最新情報を得る」「議論や会話をする」「対価を受け取りたい」です。これらのジョブに対して体験を高め、エコシステムを構築する方針を打ち出しました。

組織全体をジョブ中心に再編成することで、チームの方向性が明確になりました。機能追加や改善の判断基準も、「顧客のジョブをより良く片づけられるか」という一点に集約されたのです。

Microsoft:顧客課題を統合したパッケージ開発

Microsoftは、ソフトウェアアシュアランス(保証サービス)の改善にジョブ理論を適用しました。当初、更新プログラムを提供していましたが、売上は伸び悩んでいました。

ジョブの視点で顧客を分析すると、機能的ジョブだけでなく感情的ジョブも存在することが分かりました。顧客は「社内手続きの煩雑さを避けたい」「ソフトウェアの数や状態を把握したい」というジョブを抱えていたのです。

そこでMicrosoftは、更新プログラムを拡充し、ライフサイクル管理を可視化できるパッケージに再設計しました。複数のジョブを統合的に解決したことで、顧客満足度と収益の向上につながっています。

Uber:快適でスピーディな移動体験の実現

Uberは、従来の交通手段が解決できていなかったジョブに着目してイノベーションを起こしました。タクシーや公共交通機関の機能的ジョブは「目的地まで移動する」ですが、顧客にはそれ以上の期待がありました。

観察を通じて明らかになったのが、Uberは「待ち時間のストレス」「手配の面倒さ」「料金の不透明感」という感情的ジョブでした。顧客が本当に求めていたのは、快適でスピーディな移動体験だったのです。

配車プラットフォームの提供により、これらのジョブを統合的に解決しました。スマートフォンで簡単に配車でき、待ち時間が可視化され、事前に料金が分かる体験は、既存の交通手段にはなかった価値といえるでしょう。

iPod:運動時の音楽体験を革新

Appleは「1,000 songs in your pocket(ポケットに1000曲を)」というメッセージでiPodを展開し、音楽業界に革命を起こしました。従来のCDプレーヤーやMDプレーヤーとは異なるジョブに着目したのです。

Appleが定義したジョブは「運動時にも音楽でモチベーションを高めたい」でした。ランニング中でも快適に使えるポケットサイズのプレーヤーという機能的ジョブを満たしました。

さらにGeniusという自動プレイリスト機能で「音楽の意外な組み合わせを楽しむ」という感情的ジョブも解決。白くて太いイヤホンコードで「Apple製品を使っている」という社会的ジョブまで満たしたのです。3つの側面すべてを押さえた設計が、iPodの成功を支えました。

BtoBビジネスにおけるジョブ理論の活用

ジョブ理論をBtoBビジネスにおいて実践することが有効的なのか疑問に思っている方に向けて、

  • BtoBでこそ効果を発揮する理由
  • ステークホルダーのジョブを明確化する

の2点を紹介していきます。

BtoBでこそ効果を発揮する理由

ジョブ理論はBtoCの事例が有名ですが、実はBtoBビジネスでこそ真価を発揮します。BtoBでは意思決定者が複数存在し、全員の購入動機を満たす必要があるためです。

たとえば企業向けソフトウェアの導入には、現場担当者・マネージャー・経営層・IT部門など、さまざまなステークホルダーが関わります。各人が異なるジョブをもっており、それぞれを理解しなければ採用されません。

また、BtoBでは顧客開発やPMF(プロダクト・マーケット・フィット)までに許容される試行錯誤が少ない特徴があります。ジョブ理論により初期段階から顧客の本質的ニーズをとらえることで、効率的な製品開発が可能になります。

ステークホルダーのジョブを明確化する

BtoBでジョブ理論を活用する際は、まずステークホルダーを洗い出します。誰が意思決定に関与し、誰が実際に使用し、誰が費用を承認するのかを整理します。

次に、各ステークホルダーのジョブを明確化します。現場担当者は「業務効率を上げたい」、マネージャーは「チームの生産性を向上させたい」、経営層は「コスト削減と売上向上を実現したい」など、立場により異なります。

そして、どのステークホルダーのジョブが最も切実かを評価します。最も強いジョブをもつ人物を味方につけることが、導入のカギとなります。最後に、それぞれのジョブに応じた価値提案を構築し、全員が納得できるソリューションを設計するのです。

ジョブ理論を学ぶためのおすすめ書籍

ジョブ理論をより深く学びたい方には、クレイトン・M・クリステンセン著『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(ハーパーコリンズ・ジャパン、2017年)がおすすめです。

本書は、人がモノを買う行為そのもののメカニズムを解き明かし、予測可能で優れたイノベーションの創り方を提示しています。イケア、P&G、アマゾンなど豊富な企業事例を通じて、理論の実践方法が学べます。

また、津田真吾・INDEE Japan著『「ジョブ理論」完全理解読本』(翔泳社、2018年)も実践的な内容です。日本企業向けにジョブ理論を応用する方法が詳しく解説されており、具体的なフレームワークやツールが紹介されています。

まとめ:ジョブ理論でイノベーションを予測可能に

ジョブ理論は、顧客が商品を購入する「なぜ」という本質的な理由を解き明かす理論です。従来のマーケティングが見落としてきた因果関係のメカニズムを明らかにすることで、イノベーションを予測可能にします。

重要なポイントは、顧客の属性データではなく「特定の状況で成し遂げたい進歩」に焦点を当てることです。機能的・感情的・社会的という3つの側面からジョブを理解し、顧客が真に求める価値を提供します。

実践にあたっては、観察とインタビューによるジョブハンティングから始め、雇用までのストーリーを作り、阻害要因を取り除き、ジョブを中心とした組織構築へと進みます。X(旧Twitter)・Microsoft・Uber・iPodなど、多くの企業がジョブ理論で成功を収めています。

新規事業開発やマーケティング戦略の立案において、ジョブ理論は強力な武器となります。顧客の本質的なニーズをとらえ、市場に支持される商品・サービスを開発するために、ぜひジョブ理論を活用してください。まずは自社の顧客が抱えるジョブを探すことから始めてみましょう。

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