PEST分析とは?目的ややり方を具体例付きでわかりやすく解説

「市場環境が変化する中で、どのように戦略を立てればいいのか分からない」
「外部環境の影響をどう分析すればいいのか分からない」
そんな悩みを抱えていませんか?
PEST分析は、政治・経済・社会・技術という4つの外部環境要因を分析し、中長期的な戦略立案に活かせる強力なフレームワークです。
本記事では、PEST分析の基本から具体的なやり方、業界別の事例、他のフレームワークとの連携方法まで徹底的に解説します。
この記事を読むことで、自社を取り巻く外部環境を的確に把握し、戦略的な意思決定ができるようになるでしょう。ぜひ最後まで読んで、実践に活かしてください。
目次
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PEST分析とは

PEST分析とは、企業を取り巻くマクロ環境を4つの視点から体系的に分析するフレームワークです。Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)の頭文字を取ってPESTと呼ばれます。
1960年代にハーバード大学の経営学者フランシス・アギラー教授が提唱した環境分析手法が起源とされており、現在も多くの企業で戦略立案の基礎として活用されています。
マクロ環境の変化を読み解くことで、中長期的なビジネスチャンスとリスクを事前に把握できる点が最大の特徴です。
マクロ環境とミクロ環境の違い

マクロ環境とは、企業が直接コントロールできない外部の大きな環境要因を指します。法律改正や経済動向、人口動態、技術革新など、社会全体に影響を与える要素がこれに該当します。
一方、ミクロ環境は企業が比較的影響を及ぼせる範囲の環境です。具体的には顧客、競合他社、サプライヤー、流通チャネルなど、自社の事業活動に直接関わる要素を指します。
PEST分析はマクロ環境に焦点を当て、3C分析やファイブフォース分析はミクロ環境を扱う棲み分けがあります。
PEST分析の4つの要素
本章では、PEST分析の4つの各要素について紹介します。
相互に影響し合っており、総合的に把握することが重要なので、それぞれの要素について詳しく見ていきましょう。
Politics(政治的要因)
政治的要因とは、法律や規制、政策、税制など、政府や行政機関の動向が事業に与える影響を分析する要素です。法改正や規制緩和は、業界の競争環境を大きく変える可能性があります。
【主な分析項目】
- 法律・規制の改正動向(労働法、環境規制、業界規制など)
- 税制改正や補助金制度の変更
- 政権交代や政策方針の転換
- 国際関係や貿易協定の変化
- 政治的安定性や地政学リスク
たとえば、個人情報保護法の改正(法律の改正動向)はデジタルマーケティング戦略に、再生可能エネルギー政策(政策方針の転換)はエネルギー業界全体に大きな影響を及ぼします。
Economy(経済的要因)
経済的要因では、景気動向や為替レート、金利、物価など、経済環境が事業に与える影響を分析します。経済状況の変化は、消費者の購買力や企業の投資判断に直結するため、綿密な分析が求められます。
【主な分析項目】
- GDP成長率や景気循環
- 為替相場の変動
- 金利動向(政策金利、市場金利)
- インフレ率・デフレ率
- 失業率や賃金水準
2024年の円安進行は輸出企業にとって追い風となった一方、輸入原材料を扱う企業には大きなコスト増要因となりました。このように経済要因は業界や企業によって影響が異なります。
Society(社会的要因)
社会的要因は、人口動態や価値観、ライフスタイル、文化的トレンドなど、社会全体の変化を分析する要素です。消費者ニーズの変化を予測するうえで極めて重要な視点となります。
【主な分析項目】
- 人口構成の変化(少子高齢化、人口減少)
- ライフスタイルや価値観の変化
- 健康志向や環境意識の高まり
- ダイバーシティやジェンダー平等への意識
- 都市化や地方創生の動向
日本では少子高齢化が進行しており、シニア市場の拡大や労働力不足が多くの業界で課題となっています。
また、SDGsへの関心の高まりは、企業の事業戦略にも大きな影響を与えています。
Technology(技術的要因)
技術的要因では、技術革新やデジタル化、研究開発動向など、テクノロジーの進化が事業に与える影響を分析します。技術革新は既存ビジネスモデルを破壊し、新たな市場機会を生み出す可能性があります。
【主な分析項目】
- AI・IoT・5Gなどの新技術の普及
- DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展
- 自動化・ロボット化の動向
- サイバーセキュリティのリスク
- 特許や知的財産の動向
生成AIの登場は、コンテンツ制作やカスタマーサポート、プログラミングなど幅広い業務に革新をもたらしています。技術要因は変化のスピードが速いため、継続的な情報収集が不可欠です。
PEST分析を行う4つの目的
PEST分析を実施する主な目的は、外部環境の変化を的確に捉え、戦略的な意思決定につなげることです。
ここでは代表的な目的として、
- マーケティング戦略・事業戦略の方向性を明確化
- 中長期的な戦略策定の基盤作り
- 将来のリスクと機会を予測
- 自社ブランドを取り巻く「社会の空気」や「人々の期待」の察知
の4つを解説します。
マーケティング戦略・事業戦略の方向性を明確化
PEST分析により外部環境の全体像を把握することで、自社がどの方向に進むべきかが見えてきます。市場の追い風となる要因を活かし、逆風となる要因に備えた戦略を立案できます。
たとえば、環境規制の強化という政治的要因と、エコ意識の高まりという社会的要因を組み合わせて分析すれば、環境配慮型商品の需要拡大を予測できるでしょう。
このように複数の要因を総合的に判断することで、実効性の高い戦略の方向性を定められます。
マーケティング戦略についてはこちらの記事で紹介しています。定義とおすすめのフレームワークをまとめているので、ぜひ参考にしてください。
中長期的な戦略策定の基盤作り
PEST分析は短期的なトレンドではなく、3年から5年、場合によっては10年先を見据えた分析を行います。中長期的な視点で外部環境を分析することで、持続可能な成長戦略の基盤を構築できます。
人口動態の変化や技術革新のトレンドは、一朝一夕には変わりません。これらの構造的な変化を早期に捉えることで、競合他社に先駆けた事業転換や新規参入が可能になります。
経営層が意思決定を行う際の重要な判断材料として、PEST分析の結果が活用されています。
将来のリスクと機会を予測
マクロ環境の変化は、企業にとってリスクにもチャンスにもなり得ます。
PEST分析を通じて将来起こり得る変化を予測することで、早期に対策を講じたり、新たなビジネス機会を捉えたりすることが可能です。
法改正による規制強化をリスクとして事前に把握すれば、コンプライアンス体制の整備に着手できます。逆に、技術革新による市場拡大をチャンスと捉えれば、先行投資によって競争優位を築けるかもしれません。
予測力が企業の競争力を左右する時代において、PEST分析は重要なツールとなります。
自社ブランドを取り巻く「社会の空気」や「人々の期待」の察知
PEST分析を通じて外部環境を分析することで、時代とともに変化する価値観や消費者意識の変遷を捉えることができます。
たとえば、環境意識の高まりやダイバーシティへの関心、ワークライフバランス重視の傾向など、社会全体のトレンドを把握することで、自社ブランドに対して人々が何を求めているのか、どのような期待を寄せているのかを察知できます。
これにより、時代に即したブランドメッセージの発信や商品開発が可能になり、社会的要請に応えられないリスクを回避しながら、新たなビジネスチャンスを発見することができます。
社会の「空気」を読み取り、先回りして対応することが、持続的なブランド価値の向上につながります。
しかし、持続的なブランド価値を作るうえでは、ブランディングそのものを押さえておかなくてはなりません。ブランディングやブランドイメージについてはこれらの記事でまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
PEST分析を活用すべき5つのシーン
PEST分析はさまざまな場面で活用できますが、特に効果を発揮する代表的なシーンを5つ紹介します。
- 新規事業の立ち上げ
- 市場参入・撤退の判断
- 既存事業の見直し
- M&Aの検討
- 世の中の大きな変化が起きた時
自社の状況と照らし合わせて、適切なタイミングで実施しましょう。
新規事業の立ち上げ
新規事業を検討する際、PEST分析によって市場の成長性や参入障壁を事前に把握できます。政治的な規制緩和や技術革新が追い風となる領域を見極めることで、成功確率を高められます。
たとえば、ドローン配送事業を検討する場合、航空法などの政治的要因、物流コスト削減という経済的要因、過疎地での需要という社会的要因、自律飛行技術の進化という技術的要因を総合的に分析する必要があります。
これにより事業の実現可能性と市場機会を多角的に評価できるでしょう。
市場参入・撤退の判断
海外市場への参入や既存市場からの撤退を判断する際も、PEST分析が有効です。
各国の政治・経済・社会・技術的な環境を分析することで、参入リスクや成長ポテンシャルを客観的に評価できます。
特に海外展開では、現地の法規制や商習慣、消費者の価値観など、日本とは異なる環境要因を理解することが不可欠です。
PEST分析を通じて市場環境を正確に把握することで、撤退リスクを最小化し、成功確率を最大化できます。
既存事業の見直し
既存事業が停滞している場合や、環境変化への対応が必要な場合にもPEST分析は役立ちます。
外部環境の変化が自社事業にどのような影響を与えているかを分析することで、事業転換や改善の方向性が見えてきます。
たとえば、店舗型小売業がEC化の波に直面している場合、技術的要因(ECプラットフォームの進化)と社会的要因(オンラインショッピングの浸透)を分析することで、オムニチャネル戦略への転換といった具体的な施策につなげられます。
M&Aの検討
M&Aを検討する際、買収対象企業が属する業界の将来性を見極めることは極めて重要です。
PEST分析によって、その業界を取り巻くマクロ環境が追い風なのか逆風なのかを判断できます。
規制強化によって市場が縮小する可能性がある業界への投資は慎重になるべきですし、逆に技術革新や社会変化によって成長が見込まれる業界への投資は積極的に検討すべきでしょう。
デューデリジェンス(M&Aや投資を行う際に、対象となる企業の事業・財務・法務などの状況を事前に調査し、リスクや価値を適正に把握するための手続き)の一環としてPEST分析を実施することで、投資判断の精度が高まります。
世の中の大きな変化が起きた時
パンデミックや大規模な自然災害、経済危機など、予期せぬ大きな変化が起きた際にもPEST分析は有効です。急激な環境変化が自社にどのような影響を及ぼすかを迅速に分析し、対応策を立案できます。
COVID-19パンデミックでは、外出制限という政治的要因、景気後退という経済的要因、非接触ニーズの高まりという社会的要因、リモートワーク技術の普及という技術的要因が複合的に作用しました。
PEST分析によってこれらを整理することで、多くの企業が新たな事業機会を見出しました。
【7STEP】PEST分析の具体的なやり方
PEST分析を効果的に実施するための7つのステップを解説します。
- 目的とゴールを明確化する
- 4つの要素ごとに情報を収集する
- PESTの4要素に情報を分類する
- 「事実」と「解釈」を分ける
- 「機会」と「脅威」に分類する
- 「短期」と「長期」でトレンドを見極める
- 他のフレームワークで深掘りする
各ステップを丁寧に進めることで、精度の高い分析結果が得られます。
STEP1:目的とゴールを明確化する
PEST分析を始める前に、「何のために分析するのか」を明確にすることが重要です。
新規事業の検討なのか、既存事業の見直しなのか、M&Aの判断なのかによって、着目すべきポイントが変わってきます。
分析の目的を明確にすることで、情報収集の範囲や深さ、分析の時間軸(短期・中期・長期)を適切に設定できます。
また、分析メンバー間で目的を共有することで、議論の方向性がブレにくくなるでしょう。目的設定の段階で、経営層や関係部門とすり合わせを行うことも効果的です。
STEP2:4つの要素ごとに情報を収集する
Politics、Economy、Society、Technologyの各要素について、幅広く情報を収集します。
政府の白書や統計データ、業界レポート、ニュース記事、学術論文など、信頼性の高い情報源を活用しましょう。
【主な情報源】
- 政府統計ポータルサイト(e-Stat)
- 経済産業省や総務省の白書・報告書
- 業界団体の調査レポート
- 日本経済新聞などの経済メディア
- 調査会社のマーケットレポート
情報収集では量よりも質を重視し、できるだけ一次情報や公的機関のデータを参照することが大切です。
また、過去のトレンドだけでなく、将来予測に関する情報も積極的に収集しましょう。
STEP3:PESTの4要素に情報を分類する
収集した情報を政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の4つのカテゴリーに分類します。
情報によっては複数のカテゴリーにまたがる場合もありますが、最も影響が大きいカテゴリーに振り分けましょう。
分類作業はExcelやスプレッドシートを活用すると効率的です。各要素ごとにシートを分けて情報を整理すると、後の分析がスムーズになります。
チームで作業する場合は、クラウドツールを使って情報を共有すると、複数人での同時編集が可能になり効率が上がります。
STEP4:「事実」と「解釈」を分ける
分類した情報を「客観的な事実」と「主観的な解釈」に分けます。
事実とは、数値データや法律の条文など、誰が見ても同じ内容として認識できるものです。解釈とは、その事実から導き出される予測や影響評価などを指します。
たとえば「2024年に出生数が過去最少を更新した」は事実ですが、「少子化によって子ども向け市場が縮小する」は解釈です。
事実と解釈を混同すると、分析の客観性が失われてしまいます。事実をベースに複数の解釈を検討することで、より多角的な分析が可能になります。
STEP5:「機会」と「脅威」に分類する
各要因が自社にとって「機会(Opportunity)」なのか「脅威(Threat)」なのかを判断します。
同じ環境変化でも、企業や事業によって機会にも脅威にもなり得る点に注意が必要です。
たとえば、環境規制の強化は既存の製造業にとっては脅威ですが、環境技術をもつ企業にとっては機会となります。自社の強みや弱み、ビジネスモデルを考慮しながら、各要因の影響を評価しましょう。
機会と脅威を明確にすることで、次のステップである戦略立案につながります。
STEP6:「短期」と「長期」でトレンドを見極める
特定した機会と脅威について、それが短期的なトレンドなのか、長期的なトレンドなのかを判断します。
対応の優先順位や戦略の時間軸を決めるうえで重要な段階で、一時的なブームと構造的な変化を見極めることが肝心です。
人口動態の変化や技術の普及は長期的トレンドですが、為替変動や一時的な政策は短期的要因として捉えるべきでしょう。
長期トレンドには戦略的な対応が、短期トレンドには機動的な対応が求められます。
STEP7:他のフレームワークで深掘りする
PEST分析で得られた外部環境の理解を、3C分析やSWOT分析などの他のフレームワークと連携させて、より具体的な戦略に落とし込みます。
PEST分析はあくまで外部環境分析の入口です。
たとえば、PEST分析で特定した機会と脅威をSWOT分析に組み込み、自社の強み・弱みと掛け合わせることで、実行可能な戦略オプションが見えてきます。
複数のフレームワークを組み合わせることで、分析の精度と実効性が高まるでしょう。
マーケティングフレームワークを知りたい方はこちらの記事を読んでみてください。「環境分析・戦略立案・顧客分析」と目的別の一覧記事となっているので、自社の目的にあったフレームワークを下記記事より選びましょう。
【業界別】PEST分析の具体例
PEST分析を実際の業界に当てはめた具体例を3つ紹介します。各業界で注目すべきポイントが異なることを理解しましょう。
- 飲食業界
- 自動車業界
- IT・SaaS業界
順に紹介します。
事例1:飲食業界のPEST分析
飲食業界におけるPEST分析の例を以下の表にまとめました。
| 要素 | 内容 | 影響 |
|---|---|---|
| Politics(政治) | 食品衛生法の改正 HACCPの義務化 酒類提供規制 | コンプライアンスコスト増 営業時間制限 |
| Economy(経済) | 人件費の上昇 原材料価格の高騰 円安による輸入コスト増 | 収益性の低下 価格転嫁の必要性 |
| Society(社会) | 健康志向の高まり、単身世帯の増加 外食需要の二極化 | メニュー開発の方向性 店舗形態の多様化 |
| Technology(技術) | モバイルオーダーの普及 キャッシュレス決済 調理ロボットの導入 | オペレーション効率化 非接触サービス |
飲食業界では、健康志向の高まりやデリバリー需要の拡大を機会として捉え、一方で人手不足や原材料高騰を脅威として対策を講じる必要があります。
事例2:自動車業界のPEST分析
自動車業界は大きな転換期を迎えており、PEST分析による環境把握が特に重要です。
| 要素 | 内容 | 影響 |
|---|---|---|
| Politics(政治) | 脱炭素政策 EV購入補助金 排ガス規制強化 | 電動化への投資必要性 内燃機関車の制約 |
| Economy(経済) | 半導体不足 資源価格の変動 新興国市場の成長 | サプライチェーンリスク 市場機会の拡大 |
| Society(社会) | カーシェアリングの普及 環境意識の高まり 若年層の車離れ | 所有からシェアへ 製品価値の再定義 |
| Technology(技術) | 自動運転技術 コネクテッドカー バッテリー技術の進化 | CASE領域への対応 異業種との競争激化 |
自動車業界では「CASE(Connected、Autonomous、Shared & Services、Electric)」と呼ばれる大変革が進行中です。従来のビジネスモデルからの転換が求められています。
事例3:IT・SaaS業界のPEST分析
急成長を続けるIT・SaaS業界のPEST分析例です。
| 要素 | 内容 | 影響 |
|---|---|---|
| Politics(政治) | 個人情報保護法の改正 デジタル庁の設立 DX推進政策 | セキュリティ対策強化 公共分野の需要拡大 |
| Economy(経済) | ITインフラ投資の増加 サブスクモデルの定着 円安 | 市場拡大 収益の安定化 海外展開コスト |
| Society(社会) | リモートワークの定着 デジタルリテラシーの向上 働き方改革 | クラウドサービス需要増 ユーザー層拡大 |
| Technology(技術) | 生成AI技術の急速な発展 クラウドネイティブ API連携の高度化 | 競争環境の激変 製品開発サイクルの短縮化 |
IT・SaaS業界では、DX推進の追い風を受けつつ、技術革新のスピードに対応し続けることが成功のカギとなります。
PEST分析と他のフレームワークの連携方法
PEST分析の効果を最大化するには、他のフレームワークと組み合わせることが重要です。
それぞれの特性を理解し、戦略立案プロセス全体の中で活用しましょう。
- 3C分析でミクロ環境を分析
- SWOT分析で統合的に整理
- STP分析で戦略を設計
- 4P/4C分析で施策を具体化
それぞれ紹介します。
3C分析でミクロ環境を分析

PEST分析でマクロ環境を把握した後、3C分析(Customer・Competitor・Company)でミクロ環境を分析します。
外部環境の大きな流れを理解したうえで、顧客ニーズや競合動向、自社の強みを分析することで、より実践的な戦略が立案できます。
たとえば、PEST分析で「高齢化社会の進展」というトレンドを把握したら、3C分析でシニア層の具体的なニーズ、競合他社のシニア向け商品、自社がシニア市場で活かせる強みを分析します。
マクロとミクロの両面から環境を理解することで、説得力のある戦略が構築できるでしょう。
SWOT分析で統合的に整理

PEST分析で特定した機会と脅威を、SWOT分析の機会(Opportunities)と脅威(Threats)に組み込みます。
さらに自社の強み(Strengths)と弱み(Weaknesses)を加えることで、4つの象限から戦略オプションを導き出せます。
【SWOT分析の4つの戦略】
- 強み×機会:積極的攻勢戦略
- 強み×脅威:差別化戦略
- 弱み×機会:段階的施策
- 弱み×脅威:撤退・縮小戦略
PEST分析で外部環境を理解し、SWOT分析で内部リソースと掛け合わせることで、実行可能性の高い戦略を選択できます。
STP分析で戦略を設計

PEST分析とSWOT分析を経て戦略の方向性が定まったら、STP分析(Segmentation・Targeting・Positioning)でマーケティング戦略を具体化します。
どの市場セグメントを狙い、どのようなポジショニングを取るかを決定します。
外部環境の変化によって新たに生まれる市場セグメントを見極め、自社の強みが活かせるターゲット層を選定することで、競争優位性の高い戦略を展開できます。
PEST分析で把握したトレンドは、STP分析における市場セグメンテーションの重要な視点となるでしょう。
4P/4C分析で施策を具体化

最後に4P分析(Product・Price・Place・Promotion)または4C分析(Customer Value・Cost・Convenience・Communication)で、具体的なマーケティングミックスを設計します。
戦略を実行レベルの施策に落とし込む段階です。
PEST分析で把握した環境変化に対応した商品開発、価格設定、流通チャネル、プロモーション施策を検討します。
たとえば、環境意識の高まりというトレンドに対して、エコ素材を使った商品開発、環境配慮を訴求するプロモーションなど、具体的なアクションプランを策定できます。
PEST分析を成功させる5つのコツ
PEST分析を効果的に実施し、成果につなげるための5つのポイントを紹介します。
- 明確な目的意識をもつ
- 中長期視点で分析する
- 複数人で議論する
- 定期的に見直す
- 他のフレームワークと併用する
①明確な目的意識をもつ
分析のための分析に終わらないよう、「何のために分析するのか」「分析結果をどう活用するのか」を常に意識することが重要です。目的が曖昧なまま分析を進めると、情報収集が散漫になり、実務に活かせない結果に終わってしまいます。
新規事業の検討なのか、既存事業の見直しなのか、M&Aの判断なのかによって、着目すべきポイントや分析の深さが変わります。
プロジェクトの冒頭で関係者全員が目的を共有し、分析のゴールイメージをもつことで、効率的かつ実践的な分析が可能になるでしょう。
②中長期視点で分析する
PEST分析は短期的なトレンドではなく、3年から10年先を見据えた中長期的な視点で行うことが基本です。目先の変化に振り回されず、構造的な環境変化を捉えることに注力しましょう。
人口動態や技術革新、社会価値観の変化などは、一朝一夕には変わりません。これらの大きな流れを見極めることで、持続的な競争優位を築く戦略が立案できます。
ただし、業界によっては短期的な変化も重要な場合があるため、自社の事業特性に応じて適切な時間軸を設定することが大切です。
③複数人で議論する
一人で分析するよりも、異なる部門や視点をもつメンバーと議論することで、多角的な分析が可能になります。
営業、マーケティング、開発、財務など、さまざまなバックグラウンドをもつメンバーを巻き込みましょう。
特に「事実と解釈を分ける」「機会と脅威を判断する」といったステップでは、議論を通じて認識のズレを調整し、組織全体で共通認識をもつことが重要です。
④定期的に見直す
一度実施したPEST分析を放置せず、定期的に見直すことが成功のカギです。外部環境は常に変化しており、分析結果も時間とともに陳腐化します。
少なくとも年に1回、可能であれば半期ごとに更新することをおすすめします。
特に大きな環境変化(パンデミック、法改正、技術革新など)が起きた際には、臨時で分析を更新し、戦略への影響を評価すべきです。
定期的な見直しによって、環境変化に機敏に対応できる組織体質が醸成されます。
⑤他のフレームワークと併用する
PEST分析単独では戦略立案まで至りません。3C分析、SWOT分析、STP分析、4P分析など、他のフレームワークと組み合わせて活用することで、分析結果を具体的なアクションプランに落とし込めます。
各フレームワークには得意分野があり、PEST分析はマクロ環境分析に特化したツールです。
戦略立案プロセス全体の中で、適切なタイミングと目的とで各フレームワークを使い分けることが、実効性の高い戦略を生み出すポイントとなります。
PEST分析でよくある失敗と対策
PEST分析を実施する際によく見られる失敗パターンと、その対策方法を解説します。
- 情報収集だけで満足してしまう
- 解釈と事実を混同する
- 分析結果を活用しない
- 短期的な視点で分析してしまう
それぞれ見ていきましょう。
失敗1:情報収集だけで満足してしまう
PEST分析において最も多い失敗は、大量の情報を集めただけで分析を終えてしまうことです。情報を収集し分類しただけでは、戦略立案には役立ちません。
【対策】
分析の目的に立ち返り、収集した情報から「自社にとっての機会は何か」「脅威は何か」「どのような戦略を取るべきか」という問いに答えることを意識しましょう。
情報収集は手段であり、目的ではありません。集めた情報を深く考察し、洞察を導き出すプロセスこそが分析の本質です。
失敗2:解釈と事実を混同する
客観的な事実と主観的な解釈を区別せずに分析を進めてしまうケースも多く見られます。この混同は、バイアスのかかった分析結果を生み、誤った意思決定につながる危険性があります。
【対策】
「出生率が低下している」は事実ですが、「そのため子ども向け市場は今後成長しない」は解釈です。
事実を明確に記録したうえで、複数の解釈や仮説を立てる習慣をつけましょう。チームで分析する場合は、メンバー間で「これは事実か解釈か」を確認し合うことも効果的です。
失敗3:分析結果を活用しない
時間をかけてPEST分析を実施しても、その結果が経営層に共有されず、戦略に反映されないケースがあります。分析が形骸化し、「やらされ仕事」になってしまうと、組織全体の分析力が低下します。
【対策】
分析結果を経営会議や戦略会議で報告し、意思決定に活用されるプロセスを確立しましょう。
また、分析結果から具体的なアクションアイテムを抽出し、担当者と期限を決めて実行に移すことが重要です。PDCAサイクルの中にPEST分析を組み込むことで、継続的な改善が可能になります。
失敗4:短期的な視点で分析してしまう
目先のトレンドや一時的な変化に注目しすぎて、中長期的な構造変化を見逃してしまう失敗も少なくありません。PEST分析の本来の価値は、将来を見据えた戦略立案にあります。
【対策】
分析する際は最低でも3年、できれば5年から10年先を見据えた視点をもちましょう。「この変化は一時的なものか、それとも構造的なものか」を常に問いかけることが大切です。
過去のデータから長期トレンドを読み取り、将来予測と組み合わせることで、より精度の高い分析が可能になります。
PEST分析に関するよくある質問(FAQ)

PEST分析について、よく寄せられる質問とその回答をまとめました。
- PEST分析に必要な時間は?
- 少人数でもPEST分析はできる?
- PESTLEやSTEEPLE分析との違いは?
同じような疑問をお持ちの方はぜひ参考にしてください。
Q1:PEST分析に必要な時間は?
A:分析の規模や目的によって異なりますが、一般的には以下の時間配分が目安となります。
小規模(既存事業の簡易的な見直し):情報収集23日、分析・議論半日1日、合計1週間程度
中規模(新規事業検討や年次の戦略見直し):情報収集12週間、分析・議論23日、合計3週間程度
大規模(M&Aや大型投資の判断):情報収集34週間、分析・議論1週間、合計12ヶ月
時間をかければ良い分析になるわけではありません。目的に応じて適切な深さで分析し、スピード感を持って実行に移すことが大切です。
Q2:少人数でもPEST分析はできる?
A:はい、少人数でもPEST分析は実施可能です。ただし、一人や少人数で行う場合は視点が偏りやすいため、意識的に多角的な視点をもつことが重要になります。
少人数で実施する際は、各自が異なる情報源から情報を収集したり、「もし自分が競合企業の立場だったら」「顧客の立場だったら」と視点を変えて考えたりすることで、分析の幅を広げられます。
可能であれば、社外の専門家やコンサルタントに意見を求めることも有効でしょう。
Q3:PESTLEやSTEEPLE分析との違いは?
A:PESTLE分析は、PESTの4要素にLegal(法的要因)とEnvironmental(環境的要因)を加えた6要素のフレームワークです。
STEEPLE分析はさらにEthics(倫理的要因)を加えた7要素の分析手法となります。
日本では基本の4要素(PEST)で分析することが一般的ですが、環境規制や法的要因が事業に大きく影響する業界(化学、製薬、エネルギーなど)では、より詳細な分類が有効な場合もあります。
自社の業界特性や分析目的に応じて、適切なフレームワークを選択しましょう。
まとめ
PEST分析は、政治・経済・社会・技術という4つの視点から外部環境を体系的に分析し、中長期的な戦略立案に活かせる強力なフレームワークです。
マクロ環境の変化を早期に捉えることで、リスクを回避しチャンスを掴む戦略を立案できます。新規事業の立ち上げ、市場参入の判断、既存事業の見直しなど、さまざまなシーンで活用可能です。
ただし、PEST分析は情報収集だけでなく、そこから洞察を導き出し、具体的なアクションにつなげることが重要です。
また、3C分析やSWOT分析など他のフレームワークと組み合わせることで、より実効性の高い戦略を構築できるでしょう。
変化の激しい時代だからこそ、外部環境を正確に把握し、先手を打つ戦略が求められています。
本記事で解説した手順やコツを参考に、ぜひ自社でもPEST分析を実践してみてください。
また、PEST分析で外部環境を理解した後は、具体的なマーケティング戦略の立案が次のステップです。
マーケティング戦略の全体像と実践的なフレームワークについては、こちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。
環境分析から戦略実行まで、一貫した流れで理解を深めることで、より成果につながる施策を展開できるはずです。
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